確かな経営戦略の下に展開される
マーケットインの「ものづくり」

東洋ステンレス研磨工業 門谷誠社長/門谷豊統括部長インタビュー

第5回「ものづくり日本大賞」九州地区授賞式の当日、
福岡県太宰府市にある東洋ステンレス研磨工業本社を訪問し、
同社の「ものづくり」の秘密についてお伺いしました。

−まずは御社の沿革から

 創業者である先代社長は、住友金属に勤務後、日本ステンレスという会社に出向し、福岡の地にやってきました。以後ずっとステンレス鋼板の販売に携わっていたのですが、当時はステンレスの研磨といっても、せいぜい厨房機器用の研磨くらいでしたから、少し新しいことができればもっとステンレスの需要が広がるのではないかということで、定年退職後にこの会社を設立しました。
 当初は素材としてのステンレス鋼板の研磨を行っていましたが、九州はICアイランドと呼ばれるほど半導体や液晶の製造装置メーカーが多い土地であるため、製造装置に組み込む高度な研磨部品のニーズがありました。
 たとえば光の反射率を10パーセント以下に抑えるとか、誤差をプラスマイナス数ミクロン以内に抑えるといった「緻密なコントロール」が要求されるのですが、当社では当時から精緻な研磨技術を武器にしていましたから、その分野にも進出しました。

−そうして培われた精緻な技術が、海外の大型案件や今回受賞となったIPゴールドチタンにつながってくるわけですね。

 確かにそうかもしれませんが、それまでには長い道のりがありました。九州は「7パーセント経済圏」と言われまして、GDPの7パーセントで経済が回っていますから、大ロットの受注というものは少なくて、何事も少量多品種に対応しなくてはなりません。
 しかも仕事が多く実績も豊富な東京や大阪と同じ品質が求められますし、値段も一緒にしなくては競争についていけません。ロットが大きければ専用機も導入できコストダウンも図れるのですがそうはいかないのです。
 そこで私たちが取り組んだのが、さまざまな汎用機の中に自社開発のメカニズムを組み込み、その組み合わせによって少量多品種に対応するという「コンビネーション技術」の開拓でした。ですから社内の装置は、どれも機械屋さんに「これください」と言ってすぐに手に入るものではありません。
 この少量多品種への対応力は、建築家さんとの仕事にも役立っています。たとえば三次元の立体加工で新しい表情を与えようとするには金型がどうしても必要になりますから、「この建築にはこういう板が3枚だけ欲しい」といっても、まず対応できません。
 しかしそれを金型を使わずどうするかという発想は、私たちの得意とする分野であり、目下「中小企業ものづくり補助金」をいただきながら「三次元加飾装置」の開発に取り組んでいます。

−その一方で、ディズニー・コンサートホールやビークマン・ビルディングでは5000枚、1万枚という大ロットにも、万全の対応をされています。

 元々素材を研磨する技術には自信がありますし、なおかつ半導体関連では緻密なコントロールを科学的に行うというノウハウを確立していますから、それをマッチングさせることで、建築家の集大成と言われる大型建造物にも十分対応ができるわけです。
 もちろん限られた規模のラインで、限られた人数での対応となりますが、きちんとした生産計画を立てて、人員のやりくりさえできれば、大手でもできないくらいの高品質・大ロットの案件も安心してお任せいただけます。

−IPにしても、あえて大手がやらないチタンへのIPに挑戦されました。

 チタンへのIPは、ステンレスの場合、どう磨いても銀色は銀色なので、何とか別の色を出したいと思ったことがスタートで、福岡県の経営革新計画の承認をいただき、九州大学のご指導もいただきながら発進しました。
 ところが、当時は競合他社でもステンレスへのIP適用を始めていましたから、私たちのような委託研磨業だと、素材メーカーと同じようにIP加工した鋼板を持って外販するというやり方は難しいことが予想されました。
 それで悩んでいたときに、チタンとの出会いがありました。確かにチタンへのIPは難しいのですが、試行錯誤を重ねるうちに、チタンの磨きとイオンのコンビネーションがうまくできるようになって、新日鐵住金さんからも論理的検証のバックアップがいただけました。
 私たちのような中小の製造企業でも「こうすればできました」というところまではやれるのですが、商品化するには、それが安心して使えるという裏付けが必要となります。そういうときに、なぜ強くて、柔らかくて、加工性がよくて、なおかつ耐食性が高いIPゴールドチタンが得られるかということについても、新日鐵住金さんの技術陣が解き明かしてくださったのです。
 ただ製造や論理的検証がOKとなり、「いい商品ができました」と言っても、何に使えるのかと言われたときに、「いや何でしょうね」というのでは話になりません。しかしこの点に関しても、日本鐵板さんの市場開拓によって、神社仏閣という用途にきちんとつながっていきました。
 中小企業がなぜ売れないか、デザイン性がよくてもなぜ売れないか。理論的な裏付けまでは、大学のご協力で何とかなっても、販売のプロが存在しない限りはモノは動かないという現実があるからです。
 ですから今回のものづくり日本大賞も、技術・製造・販売のきれいなコンビネーションが最大の要因だと思っています。日本のいちばん大切な武器である「ものづくり」とは、お客様の意図に合わせて、細かいところまできちんと作り込んでいくという技術です。それだけに、商社さんに入ってもらって、メーカーの技術的な可能性と、お客様のご要望をマッチングさせるというのは、必要不可欠な要素であると思っています。

門谷豊統括部長(左)と門谷誠社長(右)
創業者門谷博氏とディズニー・コンサートホールに納めた研磨鋼板
自社開発のメカニズムが活きる製造ライン

ディズニー・コンサートホール
ビークマン・ビルディング新技術開発助成金の贈呈書とその完了認定書。助成金は受けられても、開発を完遂し完了認定を得ることは困難とされる

−販売ということでは、自社プロダクトも展開されていますね。

 いろいろなクリエイションをやってきましたが、基本的には素材としての鋼板に何かの手を加えるという仕事がほとんどで、一般の消費者には近づけていませんでした。
 しかし、建築は建物がすべてでなくて、まず地域があって、地域に文化があって、その文化に触れた建築家が頭を悩ませて、やっと建物ができるわけです。ですからそこにいる一般の人たちに訴えかける何かがなくてはなりません。
 そこで一般消費者向けの商品を作って、その商品にどういうイメージをもたれるのか、あるいはどういうものが好まれるのかを突き詰めながら1つのブランドに育てていくということを思い立ちました。
 最終的な目標は、私たちの鋼板をブランド化することですが、まず先兵隊としてこの自社プロダクトがあって、それで確立したブランドに鋼板を追随させようという戦略です。
 建築家の作る建物はブランドでも、使用される建材がただの建材だったら、自分たちの存在価値は示せないと思っています。

一般消費者に訴えかけるmakoブランドのパンフレット躍動感あふれる「ものづくり」の魂を表現するため、書道家の筆文字で描かれた「金属化粧師」のロゴ「福岡県産業デザインアワード」優秀賞に輝いた自社プロダクト“RACOON”

−自社プロダクトには、“mako”というブランド名が付けられていますが。

 “mako”という名称は、元々品番として使っていました。「mako品番はお客様との約束のあかしです」ということで、品番さえ書いてもらったら同じ研磨をお届けしますというのがスタートでした。
 今までやってきた鋼板の委託加工は、研磨屋さん、委託屋さんのイメージでしたが、自社プロダクトを作っていく中で、それをつくるための素材も全部自分たちの素材であり、それそのものも意匠性が高いということに気がつきました。それならば鋼板そのものも「匠の金属板」といったかたちでmakoブランドの商品にすることができますし、東洋ステンレスから出るものは、サービスも含めてすべてがmakoブランドとして統一できます。
 “mako”は商標登録をしていますが、うちでは企業スローガンである「金属化粧師」も商標登録をしています。10数年ほど前に、人づくりには模範となるサンプルをまず提示しなくてはならないということで、いろいろ考えていたところ、「金属化粧師」という言葉が思い浮かびました。社員から出てくる研磨の専門家としての魂が、この言葉で表現できるのではないか。じゃあその魂を1つの商標登録にもっていけないかと。
 それでこの言葉を登録して、社員には「金属化粧師」と書いたカードを配りました。すると、この言葉を見て仕事をすることで、自分たちが金属化粧師であるという誇りや自信が生まれ、モチベーションも向上していったのです。
 当社の品質方針にも「金属化粧師として誇れる商品を提供します」とうたっていますし、社員にはいつも「自信をもて、妥協をするな」と言っています。変な商品を出しても結局は返品されるだけだから最初から妥協はするなと。それが誇りにつながって、誇りにつながると妥協しなくなります。そういう中で自分たちの商品は、自分たちで守らなくてはならないという意識が育ってきたのだと思っています。

−本日は、授賞式直前のあわただしい中、貴重なお話をありがとうございました。私どもこそ、メーカーさんの「ものづくり」があってこそ、安心して市場開拓に取り組むことができます。今後ともよろしくお願い申し上げます。

※追記 取材および「ものづくり日本大賞」の授賞式後、さらに第15回「福岡県産業デザインアワード」において、お話にもあった自社プロダクトの1つ“RACOON”(子ども用デンタルサポート商品)が優秀賞を受賞しました。東洋ステンレス研磨工業のみなさま、重ねてお慶び申し上げます。

 
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