人類の貴重な文化遺産を、永遠に伝え継ぐ博物館。
奈良国立博物館様のご厚意により
博物館を守るチタン屋根の経年変化を調査しました。

奈良国立博物館
左が東新館、右は西新館
結果は良好。文化財を守るにふさわしい建材として
チタンのポテンシャルが確認できました

■調査の趣旨

明治以来の歴史を誇り、仏教美術を中心に貴重な文化遺産を多数収蔵する奈良国立博物館様。今から10数年前、第二新館(現名称:東新館)の建設にあたって、博物館という性格上、建物を守る屋根材には、より耐久性にすぐれた素材が必要とのことから、当時としてはまだあまり例のなかったチタンを屋根材としてご採用されました。

同館が竣工したのは1998(平成10)年。以後、歳月が経過する中で、実際にチタンを使用した屋根が、施主様の期待通りの性能が維持できているのか、また、供給側である私どもが本来意図したパフォーマンスを発揮しているのかについて、是非とも確認したいという思いを持ち続けていましたが、このたび、奈良国立博物館様のご厚意により、そのチタン屋根の経年変化の状況を調査させていただくことができました。

※奈良国立博物館・第二新館屋根の素材仕様
  新日鐵製造TR270C(JIS-1種 純チタン)
  板厚:0.3, 0.4, 1.2mm
  仕上:AD03(真空焼鈍+アルミナブラスト)+コルテン発色(陽極酸洗) 


〈奈良国立博物館のご紹介〉
1895(明治28)年に帝国博物館として開館。仏教美術を中心とした文化財の収集、保管、研究、展示のほか、講演会や出版活動などが行われています。本館をはじめとする各施設は、いずれも日本を代表する建築家がその設計にあたっています。
今回、チタン屋根の調査をした東新館は、吉村順三氏が基本設計を手がけ、平成9年(1997)に完成。昭和47年(1972)に完成した西新館とは、正倉院宝庫のイメージを取り入れた共通デザインとなっています。東西両新館は、毎年秋に開催される「正倉院展」の会場としても知られています。

奈良国立博物館 公式サイト>>>>
■調査の実施

調査を行ったのは2009年12月4日(金)の午後。
この日現地では、午前中に降雨があり、午後1時過ぎ観察のため屋根に上がった時点では曇。やがて晴れへと空模様が変化していきました。
■チタン屋根の現況
1)全体的外観
中央部1 東向き撮影 北側屋根 東向き撮影 南側屋根 北向き撮影
中央部2 東向き撮影 北側屋根 西向き撮影 西側入口上部屋根
物理的変化および化学的変化は確認できませんでした。
画像によって色の違いが見受けられますが、チタンには、陽光の照射具合(光の強弱、角度など)により、表面の光沢や色調が変化するという特性があるためです。
2)クローズアップ
たてはぜ重ね部 西側入口上部 中央部RT溶接部
雨水が滞留しやすいと思われる部分に、錆のようにも見える変色がありました。
近くで観察しますと、錆ではなく微物が付着・堆積したものであり、その一部を表面に疵を付けない手法にて簡易に洗浄したところ、微物は完全に除去され、健全なチタン肌が保たれていました。
除去した箇所に周囲との色の差異が認められますが、酸化膜の厚みの変化による色の変化であると判断されました。
また、溶接部にも外観上変質・剥離等の変化は認められませんでした。
水+無砥粒スコッチ洗浄後
3)外からの飛来物の影響
鳥の糞   木の枝 木の実
鳥の糞が、雨水等で流されたと思われる形跡 鳥の羽根
主に鳥の糞が落ちているのが目に付きました。
その他、鳥の羽根、鳥が運んで来たと思われる木の枝、木の実等が散見されましたが、排水溝付近を除いて、堆積にまで至っている箇所はありませんでした。雨水により排水溝まで流されているものと推測されます。

たてはぜ屋根面は、とくに清掃をされていないとのことですが、竣工後約11年を経ていることを考えると、残存する鳥糞は少ないように思われます。降雨により流れ出し、時間経過によって分解されるサイクルによって、自然に清掃されているものと推測されます。

■考察

施工後約11年を経たチタン屋根は、表面の酸化膜の成長による色の変化は認められましたが、屋根としての性能劣化を予想させる変形や腐食及びその兆候は認められませんでした。
なお、調査の結果を、ただちに奈良国立博物館様にご報告申し上げたましたところ、チタン材に期待した性能がほぼその通り実現されているとご満足をいただき、費用対効果という点でも十分なものであるとのご評価を頂戴しました。

酸化被膜の成長による色の変化に関しましては、他の屋根材の変色・変質に比して微小であると判断できますが、この種の変化につきましても、極限まで抑止すべきであると考えております。

ただし、本件施工後11年を経過した現在、各種の試行錯誤により私どものチタン建材における変色防止技術は長足の進歩を遂げています。
今後とも機会があるたびに、以後のチタン建材使用物件に関しましても、真摯な調査を行っていく所存です。

■最後に

今回の調査を通じ、チタン建材が世に問われ、きわめて早い時期に、耐食性にすぐれ半永久的に使用できるというチタン建材の特色をご評価いただき、ご採用いただきました奈良国立博物館様には、改めて感謝の思いを強くいたしました。

また、それととともに、ますます地球環境が厳しくなる中で、

・割高であっても、「適材適所」の言葉通り、耐食性が問われる箇所には、それにふさわしい素材を使わなくてはならない
・結局、長い目で見れば、コストや労力が削減できる
・とくに博物館のような建物においては、大切な文化遺産を安全に末長く守り継ぐという意味で恒久的な建築材料が適しており、ひいてはそれが、文化財保護に費やされる予算の削減にもつながる

といった点を、より多くのみなさまにご理解いただけるよう、引き続き努力していきたいと考えております。